これは、つい先月の私の実話である。
転職して二週間。新しい会社にもようやく慣れてきた頃、上司がこう言った。「明日、A社さんとの打ち合わせ、よろしくね。先方の部長も来るから、名刺持っていってね。」
名刺。そうだ、名刺。まだ届いていない。総務に確認したら「来週の後半には届くと思います」とのこと。来週の後半!? 必要なのは明日なんですけど!
時刻は午後四時。明日の打ち合わせは朝十時。残された時間は十八時間。さあ、どうする。
作戦1:コンビニプリント
まず頭に浮かんだのはコンビニのマルチコピー機だ。最近はスマホからデータを送って印刷できるらしい。退社後、近所のコンビニに駆け込んだ。
結論から言おう。コンビニのコピー機は名刺印刷に対応していない。普通紙のA4に名刺サイズの枠を並べて印刷する方法もあるにはあるが、出てきた紙を見て絶望した。ペラペラのコピー用紙に、にじんだ文字。これを「名刺です」と渡す勇気は、私にはなかった。
作戦2:自宅プリンターで自作
帰宅して、埃をかぶったインクジェットプリンターの電源を入れた。家電量販店で買った名刺用の用紙が、たしか引き出しの奥にあったはず——あった! ミシン目で切り離せるタイプの台紙だ。三年前に買ったものだが、まあ大丈夫だろう。
WordでそれらしいレイアウトをDIYし、印刷ボタンを押す。ガタガタと音を立ててプリンターが動き出した。出てきた紙を見ると……文字の位置が微妙にずれている。しかもインクが薄い。カートリッジが乾いていたのだ。
それでもミシン目に沿って切り離してみた。ガタガタだ。なぜミシン目に沿って切っているのに歪むのか、物理法則に問いたい。端にはミシン目のケバケバが残っている。触ると指に引っかかる。これはもう名刺ではなく、工作の時間である。
作戦3:テンプレートサイトで注文
よし、プロに頼もう。ネットで「名刺 即日」と検索した。おしゃれなテンプレートが並ぶサイトがいくつも出てきた。デザインを選び、会社名や名前を入力し、プレビューを確認する。おお、なかなかいい感じだ。
意気揚々と注文画面に進んだ。そして目に飛び込んできた文字。
お届け目安:3〜5営業日
三〜五営業日! 明日の朝十時に間に合わせたいのに、届くのは来週!? しかも「営業日」ということは土日を挟んだらさらに遅くなる。今日は木曜日。最短でも来週の火曜か水曜。完全にアウトだ。
別のサイトも見てみた。「最短翌営業日発送」——惜しい、でも届くのは翌々日だ。明日の朝には届かない。もうひとつのサイトは「特急オプションあり」とあるが、入稿締め切りが「午前中まで」と書いてある。今は夜の九時だ。
そもそも、何が間に合わないのか
ここで少し冷静になった。自分でデザインを作ること自体は、実はできている。さっきのWordレイアウトだってまあ及第点だった。問題は「印刷」なのだ。ちゃんとした厚みの紙に、きれいな印刷で、名刺としての品質を保って刷ること。そしてそれを明日の朝までに手に入れること。
デザインはある。印刷が間に合わない。この二つをどう解決するか。
半ばあきらめかけてスマートフォンをスクロールしていたとき、ある名刺印刷サービスが目に留まった。「当日発送対応」の文字。え? 当日?
「当日発送」という選択肢
それが「名刺ショップ」だった。名刺印刷の専門サービスだ。サイトを見てみると、データ入稿で当日発送に対応しているという。テンプレートも豊富で、自分でデザインしたデータの持ち込みもできる。
正直、半信半疑だった。でも背に腹は代えられない。急いでデザインデータを整え、入稿した。翌朝、打ち合わせの一時間前にオフィスに届いた名刺の箱を開けたとき、思わず声が出た。「……ちゃんとしてる!」
しっかりとした厚みの紙に、くっきりとした印刷。断裁も美しい。昨夜自宅で格闘していたミシン目のケバケバとは別次元のクオリティだった。その名刺を持ってA社との打ち合わせに臨み、何事もなかったかのように名刺交換を終えた。
あの夜の焦りは何だったのか。最初からここに頼んでいれば、穏やかな夜を過ごせたのに。
もしこの記事を読んでいるあなたが、今まさに「名刺が明日必要!」という状況にいるなら、深呼吸してほしい。大丈夫。道はある。